春祭へ行く

正午、地方局のTV番組で春祭の生中継をやっていた。場所は家から自転車で10分くらいのところにある寺の参道だった。今日は図書館でスペイン語の入門書を借りに行くだけしか予定を考えていなかったが、昨日も食料品の買い物以外に外へ出ていなかったので、ちょっと覗きに行ってみるかとなった。

会場である参道の商店街は古くからある店舗の他、洒落た洋菓子店やエスニック系の小物や飲食店、クラフト系の店など様々なジャンルが入り混じったところで、20年以上も前から取り組んできた街の活性化が実を結び、今ではかなりの賑わいを見せている。昨日今日と行われている春祭もそういった活動の一つであり、春、夏、秋と年3回行われているのだという。

現地に着くとそれはもう凄まじい人の数だった。今日は天気も良く気温も少し暑いくらいで、皆出店で買った酒や食べ物を手に持ち楽しそうにあちこちを見回している。他の祭りと違うのは出店の多くがクラフト系であることで、木工製品や手織り物、ガラス細工や陶器など多種多様な手作りの品が並んでいて面白い。

iPhoneを置くだけで音が大きく聴こえる木製の無電源スピーカーというのがあって、ちょっと気になったが値段を見ると数万だったのでびっくりした。いまネットで軽く調べてみたら3千円くらいからあるっぽいんだけど、やっぱ使っている木材や加工のクオリティに違いがあるんだろうか。まあ、きっとあるんだろうな。でも数千円のものと数万円のものとでどれくらいの違いがあるのだろうか。

ビスケット・オリバのワインの話を思い出す。10ドルのワインと高級車並の値段のワイン、その味わいと喜びについて。しかし、本当の金持ちはコスパというものを気にしないだろう。1万倍の金を出して10倍、20倍の喜びを享受することを厭わないだろう。金の価値は相対的なものだからだ。でも、金持ちがiPhone用の高級木製スピーカーを買うのかは分からないな。ちゃんとしたオーディオ機器を買うんじゃねえかと思うだけどな……。

僕はもう随分と長いこと縁日や祭りで買い食いした記憶がない。前に地元の寺の夏祭りでたこ焼きの屋台が、たこ焼きのタネを青くてデカいザ・ゴミ箱って感じのゴミ箱になみなみと入れて地面にそのまま置いていて、そこから金属製の柄杓みたいなもので救ってはざばざばと鉄板に流し込んでいるのを見て、それから何となく屋台の食い物はもういいかなという感じになってしまった。潔癖ではないのだが、テキ屋の屋台の食い物って基本的に美味くないしな。

ただ今回の祭り会場に並ぶ飲食の出店はテキ屋の屋台は一つもなく、多くがその参道に並ぶ飲食店からの出展で、どれも美味そうに見える。

僕は長いあいだ祭りに行くたびに買い食いをしたい気持ちと、屋台の食い物を食べたくない気持ちの間で揺れては何も買わずに済ましていたので、偶には色々試してみるかと幾つかの店を回った。

えーっと、何を食ったっけな。順番にクレープ、みたらし団子、豚肩ロースの串焼き（赤ワインビネガーソースにチーズがかかってる）、赤ワイン（確かホブノブ）、サラミと生ハムのサンドイッチ（ボカディージョ）、スパークリングワイン（イチゴとバラのジュレ入り）。こんなもんか……って、めっちゃ食ってるじゃねえか。金もないくせに。

クレープはチョコクランチが入ってザクザクとした食感で美味かった。


サンドイッチは馬鹿みたいに硬いパンの中のサラミと生ハムとチーズが入っている。無骨な感じ。サンティアゴ巡礼のお供で有名なボカディージョはこんな感じだろうか。


あとは洋菓子店が作ってたパエリアが食べたかったんだけど、これはもう凄まじい人気で売り切れ後の再販売は一時間後だというアナウンスがされているにも拘わらず何十人も列を作っているような有様で、とてもじゃないが買える感じではなかった。

帰り際に手作りの柚子胡椒を2瓶買った。店主がちょっとヒッピーっぽい良い雰囲気の人間だったので、正面に立って見ていると、豆腐に柚子味噌をちょっと載せたものを試食させてくれた。柚子の風味が鮮烈で唐辛子の辛味がかなり強い。間違いないなと思い、試食したものとは違うが柚子胡椒を買った。ちょっと瓶が小さくてすぐ使ってしまいそうなので2つ。

僕の直前に同じものを買っていった客は何度かそこの柚子胡椒を買っているらしく、去り際に「すごく美味しいですよ」と言葉を残していった。

家に帰って、昨日作った砂肝の唐揚げに柚子胡椒をちょっと付けて食べてみたら、やはり美味い。そんなとこ。