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木灘日記

日記を書きます。

父ト和解セヨ‐『BLACK SHEEP TOWN』感想


待ちに待った瀬戸口廉也の新作だぜ。
一時期音沙汰がなくなって心配したぜ。
ネタバレもあるので注意されたいぜ。

というわけで『BLACK SHEEP TOWN』である。途中若干きな臭い雰囲気を感じたものの無事に発売してよかったよかった。

皆さん買いましたか? 買ってないなら今買いましょう。

よし、買ったな。

設定的にはマフィア物と異能バトル物が混じっていてキャッチーな感じできたな、と思ったのだが、異能バトルの方はAタイプやBタイプ、グレートホールなどの設定についてさほど深掘りする感じではなかったので、そういった部分にはあまり重きを置いていなかったのかなという印象。


暴力や救いのない境遇のなかでの愛や人間の気高さ、みたいなことは過去作でもやってきたことだが、今回はマフィアの抗争がそういった舞台になっている。

異能要素についてはアクション的な目的ではなく、どちらかというとノーマル、Aタイプ、Bタイプという分類には人間同士の争いを描くに際して、人種以外の要素で分断される人々を描こうと試みた結果であるように思った。
異能の発生源とされるグレートホールはかなり暗喩っぽさがあり、人間の心とか精神とか呼ばれるものがどこからくるのか、みたいな話のように読んだ。人の心と同じように理解不能な深淵であり、そこにある理由もなく、しかし存在は頑として疑いようもない、というものである。
グレートホールの影響によって発生した異能・異形を持つ人々は、Y地区の外、Y地区の中、ボーダーと己に合わせた居場所を見つけ、そこで互いに折り合いを付けつつ何とか生活しているのだが、しかしその中でも特に逸脱した者は穴への回帰を願う。
様々な問題を抱える人々について、多かれ少なかれ人間誰だって欠陥を抱えているのだし皆同じようなもんでしょう、という公平な眼差しと、とはいえ現実的には各々仕方なしに己を弁えつつ息苦しく生きていくしかない、という思想的な部分に滋味を感じる。

そんな感じで設定的にはエンタメ性の強いものをエンチャントしつつ、重心は結構違うところにあるというか、瀬戸口廉也濃度は十分に高いなと思った。

個人的には主人公と父親の関係性に纏わる描写が一番好きな部分であり、印象も強い。
瀬戸口廉也作品の父親像には明らかに一貫するモデルがあるが、そういった無粋なことは書かないでおこう。

謝亮と父親クリスの和解。

「すまない。そして、ありがとう……」
 その言葉を聞いたとき、僕は目の前がぼやけた。
 なんでこんなにぼやけるんだろう?
 ああ、僕は涙ぐんでいるんだと、気がつくまで少し時間がかかった。気が付いたら恥ずかしくてしかたなかった。
「もう時間だ。そろそろ、お別れの時間だ……」
 いまここで席を離れれば、もう意識のある彼と、二度と話すことはないかもしれない。何か伝えなければいけないことがあったはずだ。言いたいことがあったはずだ。しかも、両手で抱えきれないほどたくさん。
 それはわかっていたのだけれど、僕はもう、これ以上ここにいることが出来なかった。
「じゃあ、さようなら、父さん」
 僕が泣きじゃくる子供みたいに顔を拭いながら言うと、
「あとを頼む。これからはお前の時代だ」
 ありがたいことに、弱った父はそんな僕の様子に気がつかなかったようで、目を閉じたままそう言った。


小説『CARNIVAL』での木村学と父親の和解。

「私を、許してくれるのか?」
 すがるような目つきで僕を見つめている。僕はその弱々しい態度が見ていられない。
「別に。ただ、罪悪感で自分自身を苦しめちゃう人とか、そういうものが少しでも世の中にあるのが、嫌になっただけですよ」
「しかし」
「いいですか、死んだ人間は永遠に許してくれない。でも、生きている人間同士なら、許し合うことが出来るんだ。それは素晴らしいことだと思いませんか」

【・・・】

 なんだか、涙がボロボロとこぼれてきた。
「生まれてきて本当に良かった」
 今なら自然に言えるかもしれないと思って、試しにそう言ってみた。言葉だけ浮いてしまうんじゃないかと心配していたけれど、驚いたことに、つられて父さんも泣き出してしまった。


物語の結末については、ほとんど呪縛のようになってしまった父親から託された龍頭としての役割を、多くのものを犠牲にしながらも自分なりに果たしきったことで謝亮はようやく父親と真に決別することができ、己自身の人生を生きることができるようになったというかたちで、綺麗な幕の閉じ方だと思う。
まあ、でも、それにしても色々な意味で父親の比重があまりにも大きくないか、という感もないではないけれども。

木村学は和解の直後、感動と喜びのなかそれらが失われる前に自ら命を絶ったが、謝亮は和解を経て父親の遺志を継ぎ、苦しみながらもそれを全うしたうえで最後には人生をやり直す機会を与えられていて、その辺りの和解後の差異も『CARNIVAL』のオタクとして感慨を覚えた。

システム的な部分で言うと、ゲームとしての体裁のためにシナリオを読み進める順番をある程度自由に選択できるようにしているのだろうとは分かるものの、正直余計なノイズになっているなと感じた。
元々分岐のない一本道のシナリオなのだから、本来想定される正しい順番があるはずだし、読み進める順番をプレイヤーが中途半端に選べることにはメリットはあまり無いように思うというか、むしろ順番によってはマイナスに働くことさえあるんじゃないだろうか。
僕は最初の方は一つシナリオを選んではアンロックされる限り気になるルートをひたすら進めるというやり方をしていたのだが、途中でどうも違和感を覚えて日付の順に読み進めるスタンスに変えた。
あとは音楽鑑賞モードとシナリオのアイコン選択時にあらすじが表示されると良かったな。

シナリオのボリューム的にはかなりのものだし、これが2800円というのは大変お得であるので、売れることを願うばかり。
が、宣伝がサッパリ過ぎるので売れているのか少し心配でもある。宣伝についてはどうにかした方が良いと思う。
瀬戸口廉也ファンに口コミ等による宣伝効果を期待してはいけません。

んで、『BLACK SHEEP TOWN』の発売から間もない本日、次作の発表があって驚いた。


次作はANIPLEX.EXEから発売らしい。以前そこのプロデューサーが熱量のある人だというのを何かの記事を読んだことがあるので、広報やら展開にも結構期待ができるのかもしれない。
瀬戸口廉也の新作が2年連続で読めることにまだちょっと現実味がないのだが、嬉しいことだな、ということで楽しみにしておきたい。

 

以上。