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木灘日記

日記を書きます。

平方イコルスン『スペシャル』 完結記念トークイベントへ行く

去る8/21日曜、夕方を過ぎて阿佐ヶ谷駅に降り立った。

阿佐ヶ谷ロフトにて平方イコルスンスペシャル』の完結記念イベントが開催され、それに参加するためである(尚、画像の看板では日付が豪快に一ヶ月誤っている)。

僕は随分前に阿佐ヶ谷に住んでいたことがあって、阿佐ヶ谷ロフトのある商店街も馴染み深い。元々大変な賑わいのある商店街だったが、なんか以前よりも更に人通りが増えているような気がする。
ちょっと早めに着いたので少し商店街を見て歩いていると、僕が住んでいた頃にもあった飲食店や食料品店の多くが以前のままに営業を続けていて懐かしい。夏になると頻繁に通った不揃いのゴーヤが異様に安く手に入る八百屋も健在であった。

近くの喫茶店でしばらく時間を潰してから再度阿佐ヶ谷ロフトの前へ行くと、すでに10人くらい並んでいた。
中は自由席で、整理券の番号順に入っては各々勝手に空いている席に座るスタイル。僕はそこそこ早い番号だったので、前の方に座った。イベントということで客側は知り合い同士のグループで来ていたりする者も多いのだろうと思っていたのだが、案外単独客が多いようで、そういうもんかと思った。

チケットは追加分も売り切れたそうでそれ自体は大変良いことなのだが、人の密度には中々閉口してしまう感じで、2~3人で使うようなテーブル1台に対して椅子が6脚くらい充てがわれている。ここで何らかの疾病を得たら言い訳が聞かないぞ、と思いつつファーストオーダーのビールを啜った。

登壇者が出てくるまではステージの写真を撮っても構わないということだったので、こんな感じ。

極めて簡易ながらもイベントのオリジナルメニューもあるぞ。
飲食物の内容ではなく、メニュー表自体に価値があるタイプです。

またここでは各種ガソリンを注文するとレギュラー/ハイオクでそれぞれ異なるペーパーが貰えるというシステムまで実装されており、至れり尽くせりやないか、という感じであった。
が、このシステムはペーパーがドリンクの配膳と共に供される仕組みであったため、登壇者への差し入れ注文では客の方にスタッフが来ずペーパーの配布も忘れられるという致命的なバグがあり、僕は死んだ。

んで、肝心のトークイベントの内容であるが、配信が日曜日まで観られるらしいのでこちらを参照されたい。以上。


……と終わらせるのも己の備忘としてここに綴る意味がなかろうという感じなので、もう少し書いておく。

まずは今回『スペシャル』の完結記念のイベントであるので、基本的にはその話題に終始するのだが、作品内容に関する解説や設定への言及は基本的に避ける感じで、個人的には良いことだなと思った。

個人的な考えとして、読者はあくまで作品として発表されたものからのみ内容を読み取り想像するのであって、作品の外での解説はそれが例え作者自身によるものであったとしても、好奇心が満たされてスッキリした気分になったりはするかもしれないが、作品がもっと面白く感じられる方向には基本的に働き得ないのではないかと思っている。
これは作者に対する信頼の問題でもあるとは思うが、作中で明らかにされないことはそれを明らかにすることよりもその作品にとって良いと作者が考えているからこそ明らかにされないのであって、明確にされた部分と伏せられた部分、そのあわいにある曖昧な辺縁から漂ってくるものが読者を惹き付ける魅力となることはままあるし、『スペシャル』も間違いなくそういった魅力を備えた作品だと思う。

まあ、そこまで考えていなかったとか、後になって軌道修正をした結果の歪みであるとかの場合もあるのだろうが、基本的には作者は読者よりも作品のことを考えているので、信頼できる作者に対しては描かれたものこそが十全の状態であるというのに全ツッパしてやっていきたい。

という感じで、作品内で明確には語られなかった部分についての謎が開陳されたり解説が加えられたりといったことはなかったのだが、代わりに漫画を通して何を描こうとしているのかとか、幼少期に読んだ絵本に影響を受けたとか、平方イコルスン自身の創作に関わる話が色々と聞けて大変良かった。

QAコーナーでは本作のイメージソング的なものがあるか、という問いに対して、This is the Kitの「Bullet Proof」、そしてローラ・ギブソンの「Empire Builder」の名前を挙げていたのが特に良かった。
「Bullet Proof」は本作の最終話のタイトルにもなっているし、「Empire Builder」は全体を通しての本作のイメージソング的なもの、というような感じのことを言っていたと思う。

This is not an escape
But I don't know how to hold somebody without losing my grip


ゲストで登壇していた位置原光Zも漫画家と読者、両方の目線でトークを促して盛り上げようとしているのが見て取れて、えらすぎる……と思った。めちゃくちゃ緊張していると言って最初は口の重かった平方イコルスンが徐々に色々と考えを話してくれるようになっていったのは氏のおかげであろうし、何より楽しそうに喋っていたのでこちらも楽しかった。
ちなみに僕は位置原光Zの漫画単行本もすべて持っており、本棚の一番良い列で平方イコルスンの書籍の隣に並べていたりするので、今回のゲストは完全に俺得な采配であった。

事前に10枚も描いてきたという色紙は残念ながら当たらなかったが、内容はすべて見ることができた。
1オーダーごとに抽選券が1枚もらえて且つ客の飲食が増えるほど登壇者にも還元されるという仕組みだったので、差し入れを含めて色々と注文を入れたものの、登壇者の席には飲みきれぬ差し入れのドリンクが溢れており、共用のテーブルにあまり己の飲食物を並べるのもな……みたいな自制心が働くので次の機会があれば空腹で臨みたい。

また、今のところ平方イコルスンは次作の予定なども完全に未定らしい。楽園で引き続き読み切りはコンスタントに掲載されるのだとは思うが、もうちょっと頻繁に読みたい。また「絵を描くのが大変なので原作をやりたい」というようなことも言っていたが、僕は平方イコルスンの絵が好きなので、苦しみながらでも描いてくれや……! と心の中で叫んだ。

幼少期に読んだ絵本の話とか、自分が内面に抱える重いものを作品を介して他者にも共有しようとしているとか、興味深い話がたくさんあったので、関心のある人は配信チケットで視聴してみると良いと思う。
そして平方イコルスンはちょっとアーミル・カーンに似ていると思う。

以上。