Cork

木灘日記

日記を書きます。

カウントダウン

やはり冬は終わってしまったのだな。

まだ朝は気温が低く実感としては薄いが、会社からの帰り道、川を越える際に橋を渡っている最中に嗅覚に春が訴えかけてくる。

良い匂い、というわけではない。どちらかといえば悪臭だ。清潔とは言い難い川の水の匂い、その中に住まう様々な生命の雑多な生臭さ、川辺の草花の湿った芳香、そういったものの匂いが一体となって鼻腔に香る。春の匂いだ。生命に満ち溢れて、どろどろと粘り気のある鈍重な空気。僕の脳味噌も重く鈍くなっていく。冬は終わってしまった。

今日、課長とも話をして、退職の話が概ねまとまったと思う。僕のような30を過ぎたおっさんが次の仕事も決めぬままただ辞めると言い出すのだから、さぞ驚いたことだろう。慰留はされたが、そつなく断ることが出来たんじゃないだろうか。

さて、僕はこれから上手く生きていくことが出来るのだろうか。上手く生きていきたいのかどうか、自分自身でも分からないし、上手く生きるということも、今ではもう分からない。まずは巡礼の準備をしよう。あとのことは後から考えればいい。

以前の部署の先輩が退職の話を聞きつけてやってきた。「気づけなくてごめん」と。一体、何を謝ることがあると言うのだろう。彼にどうにか出来た話ではないのだから、気にする必要などないと言うのに。

そして彼は概ね僕のために送別会を催そうとしてくれているらしい。僕自身は心底やらなくて良いと思っているのだが、彼の心はもう決まっているようだった。送別会は葬式に似たところがある。つまり、旅立つ人の為ではなく、残される人々のための儀式ということである。