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木灘日記

日記を書きます。

凡夫が見た夢 - 『FRANK』

FRANK フランク(字幕版)

FRANK フランク(字幕版)

  • メディア: Prime Video
 

この映画、Blu-rayが存在せずDVDしか購入の選択肢がないので未だに所持せずにいるのだが、このたびAmazonのPrimeVideoに入ったようなので映画館で観て以来、久しぶりに再視聴をした。

僕はこの映画がかなり気に入っていて、「好きな映画は?」と尋ねられればいまのところ一番最初に口をついて出るのは本作であると思うくらい強く印象に残っている。

一番最初に思いつくからといって一番好きな映画なのかというと、それはちょっと分からないというか、一番とか二番とか不毛なこと言うのはやめろって感じなんだけど、とにかく数ある映画、そして数ある映画の中から僕が観た僅かな作品群のなかで特別な作品であることは間違いない。

内容としてはミュージシャンに憧れながらも一曲も曲を完成させられず、また作りかけの曲にはセンスの欠片もない凡庸なジョンが、フランクという常時謎の被り物をした天才ミュージシャンの主催する変人バンドに入ることになり、一年近く森の中で人知れずアルバム制作に勤しんだり、露出を嫌うバンドメンバーたちを騙して音楽祭に出ることになったりする。

という話なのだが、凡庸な才能しか持たないジョンの悲しさよ。志はあれど自分が凡夫に過ぎないことを自覚しているが故の苦しみというか、この先どうにもならないだろうという閉塞感を彼は感じている。

そしてフランクと知り合い、天才である彼についていくため仕事を辞め、祖父の遺産を音楽制作のためつぎ込んだり、自分たちから表に出たがらない変人だらけのバンドのフロントマン的な立ち位置に出ようとしたりするわけだが、「彼らについていけば自分も何者かになれるんじゃないか?」という感じの夢見る凡夫としての立ち回りが涙を誘う。

ジョンが己の人生をベットしようとする先であるフランクは大きな問題を抱えているし、他のバンドメンバーの変わり者揃いであるからジョンとその他の人間とのあいだで相互理解は発生せず感情は空回り、物語は常に混乱と不穏さと共にある……のだが、そういった様々を通過した結末のシーン、これがすばらしい。

鬱屈した怒り、焦り、諦念。己の凡庸さに自覚を持てる程度の賢しさを持ってしまった悲しき凡夫よ。お前の見た夢の果てに一つの楽曲が生まれ、そして、そこにお前はいない。

FRANK フランク [DVD]

FRANK フランク [DVD]

  • 出版社/メーカー: 東宝
  • 発売日: 2015/03/18
  • メディア: DVD