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木灘日記

日記を書きます。

澁澤龍彦『幻想の肖像』を読んだ

 

幻想の肖像 (河出文庫)

幻想の肖像 (河出文庫)

 

 
先日は小説である『ねむり姫』を読んだので、今度はエッセイだなと手に取った。

元は雑誌の連載らしい。西洋絵画の女性をテーマにしたもの、もしくは女性が描かれた部分だけを切り取って焦点を当て、それについて印象批評を行うという趣向もの。

まずは端的に面白かった。僕は批評というものを正しく理解出来ていないだろうし、また批評的な物の見方ができるとも思わないが、なんとなく「新たな視座を得たな」という感じがした。

女性に焦点を当てて、その表情や装いについて考察を巡らせてくれているので、人物画ではつい女性ばかりに注目してしまう僕にとってかなり有用というか、きっと今後絵画を鑑賞するに際しての一助となったであろうと思う。

それにしても澁澤龍彦の博識ぶりには驚かされる。歴史、文学、心理学、様々な知識を有機的に結びつけながらそれぞれの絵画に解説や批評を加えていく。言葉も雑誌連載のものだったからか、かなり平易な表現を選んでいるようだが、いずれもしっかりとした説得力が備わっている。やっぱり教養は大切なんだなあと、教養のない僕は読み進めるごとに暗澹とした気分になることしきりであった。

まあでも、明晰且つ博覧強記の頭脳はなくとも、取り敢えず今まで無かったところに目がついたなと思った。明晰な文章を読んだあと、自分までも少し賢くなったような気がすることは良くある。それに限りなく近い思い上がりであることは言うまでもないが、目がついただけでまだ開いたとは言わないから勘弁してくれ。

今は瞼の向こうにわずかに光を感じているに過ぎず、それが僕の限界かもしれない。しかしそれでも十分だろう。色々なものが見えるようになることは良いことだ。光を感じることしか出来なくても、なんとなく「こっちかな?」くらいの指標が得られるのであれば、暗闇の中で怯えて棒立ちしているよりは多少マシに違いない。一番良いのは、完全な暗闇の中で何も理解することなく、ただゆらゆらと揺蕩いながら無に帰るのを待つことだが。

ちなみに実は一緒に『異端の肖像』も借りたのだが、こちらは西洋史にある程度通じていれば楽しめるのだろうなという具合で、つまり、僕は扱われる人物の名こそ知っていてもその歴史上の行いについてはもうほとんど全然と言って良いほど分からなかったので、パラパラとめくった程度で諦めてしまった。