Cork

木灘日記

日記を書きます。

スーパーマーケットの白詰草話

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大槍葦人の描く少女の少女性は最高で、これは大槍葦人が作った最高の今年のカレンダーなのだが、2月の絵柄はかの最高の白詰草話から、最高の透花が描かれている。

思えば僕の1000ある性癖の中の「肋骨が浮くほど華奢な肉体」と「脆弱な肉体でありながら歌や踊りなど身体的に健全な活動を求める精神」は白詰草話が原体験になっているような気がする。

当時の絵柄と比べると線がしっかりして地に足ついた存在感があるように思う。触れれば壊れそうで、今にも消えてしまいそうな儚さを感じさせた当時の絵柄が持つ雰囲気は、それはそれはすばらしいものだったが、今の絵柄だって全然悪くない。

さて、どうして2月に入って3日経ってからこんなことを言い出したのかというと、単純に今日になってようやくカレンダーを1月から2月へ変えたからに他ならない。

僕は普段からカレンダーを見る習慣がない。仕事中はほとんどカレンダーと睨み合ってるようなもんなのだが、仕事に関わりのない情報というものは完全に意識外にスポイルされており、会社を出ると時々曜日すら忘れそうになる。日々を曖昧に生きるにもほどがあるが、習慣というものは中々変えられないものだ。

カレンダーを用意するようになったのは去年からで、理由は大槍葦人の描いたすばらしい少女の絵が部屋の壁にかかっているという光景は、なにかとても気分が良いものなのではないか、という思いつきからだった。

カレンダーに書かれた基本的な情報には興味がないので、下手なところに掛けてしまうとせっかくの大槍葦人の描いたすばらしい少女を全く目に入れず普通に生活してしまう可能性がある。そのため、どこに掛ければ一番目につくのかを考えて、PCのモニターの真上に掛けることにした。今、こうしてキーボードを叩きながらでも、ほんの僅かに目線を上げるだけで大槍葦人の描いたすばらしい少女が微笑んでいるのが見える。気分が良い。気分が良いのは良いことだ。

昨夜は安ワインを馬鹿みたいに飲んだせいで途中で眠ってしまい、0時を過ぎてから目を覚ましたせいで、朝まで起きてようやく眠るという昼夜逆転が発生した。目を覚ますと12時を回っていた。

携帯で時間を確認して、仰向けのまま首を回して窓の方を見やるとカーテン越しの陽光はなく、外は曇天のようだった。仄暗い天井をしばらく見つめて、それからPCモニターの上に掛かったカレンダーになんとなく視線を移すと、それはまだ1月のままだった。起き上がって、画鋲を外してカレンダーをめくる。緩みきった壁の穴へ慎重に画鋲を刺し直して、新たに現れた透花の微笑みを確認すると、再びベッドへ潜り込んだ。以前は壁に画鋲を刺すことに躊躇を覚えたが、知人がティッシュと木工ボンドを練り合わせたものを使って穴を綺麗に塞ぐ黒魔術を教えてくれたので、今ではあまり抵抗がない。

ベッドにもう一度潜ったものの、眠気はないので枕元に置いていたブコウスキーを手に取って読む。『死をポケットに入れて』、凄く良い本だった。手元に置いておきたいと思ったので、買うことにしよう。ベッドに転がったまま最後まで読み終わって時間を見ると、もう15時だった。日曜日、なんて儚い存在なのだろう。

図書館から予約していた本の準備が出来たと知らせるメールが届いていたので、顔を洗って家を出た。着替える前にカーテンの外を見た時はただ曇っていただけだったが、外に出ると小雨が降っていた。

図書館で予約していた本を受け取ると、スーパーマーケットに寄った。知人がTwitterに頻繁に写真を上げていたコロンビア8というスパイスカレーのレトルトが再現度が高いと聞いていて、気になりつつもamazonで買おうとしたら1セット3個入りで最低3セットからの注文受付とのことで取りやめていたのだが、スーパーで扱っている場合もあるそうなので一応確認しに行ったのだ。

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結果として見つからなかったが、代わりにでかい苺が見つかった。下に写った苺は標準よりも小さいものだったが、それでも異常にでかい。でかすぎる。そして、その時僕の脳裏を白詰草話の一つのエピソードが過った。

主人公が遺伝子実験によって作り上げた無数の葉に覆われた白詰草、生殖能力を持たない徒花としてのそれと重なる、3人の少女。僕は人間の都合による品種改良によって肥大化させられた苺を見てそれを思い出していた。ちょっと、いや、かなり厳しいオタクだった。

起きてカレンダーをめくったのは伏線だったのか。ふとした思いつきや想像は無意識的に発生するような気がするものだが、実際にはこういったちょっとした伏線が日常には潜んでいるのだろう。割引シールが貼られ始めた恵方巻きに群がる人々を掻き分けて店を出ると、雨は本降りに近い勢いになりつつあった。

家に着くと、携帯に僕が贈ったブランケットに包まれて眠る犬の写真が届いていた。儚くも、悪くない日曜日。