Cork

木灘日記

日記を書きます。

鈴木智彦『サカナとヤクザ』 - と菊池成孔

 

 
単語を三つ並べると例の曲を想起してしまうのは、もはや我々オッサンにかけられた呪いと言って良いのではないか。

『サカナとヤクザ』、読み終わった。大変読み易く、また潜入ルポものとして扱っている題材も興味深い読み物として純粋に面白い本だった。

petroさん、貸してくれてありがとうございます。久々に会って何の前触れもなくこれを渡してきたのは全く謎であるし、僕がこんなところで日記を書いていることなど知らないと思われるが、感謝の意を表するものであります。

貧しく善良な一市民である僕にとってヤクザという存在は縁遠く、どちらかと言えばファンタジーな感覚で受け取ってしまうのだが、子供の頃に少しだけその存在の一端のようなものに触れた経験があったことを思い出した。

近所に住むオッサンは小さな土建屋を営んでおり、指に金のリングをはめていた。そしてある日それを見せながらヤクザとの関係を匂わせるようなことを言っていた。今考えても子供相手にヤクザの威を借るような振る舞いをして情けないと思うが、子供心にもそんなことを子供に言ってこのオッサンはどういうつもりかと、憐みのような気持ちを頂いたような記憶がある。

土建屋とヤクザの関係も然ることながら、本書では密漁というキーワードを軸に漁師とヤクザについてインタビューや著者の体験による多くの実例と共にその不可分な関係性を描いている。アワビやナマコ、ウニやカニやウナギ……腹が減ってきた。とにかくそんな高級な海産物にはだいたいヤクザが絡んでいる。

それっぽい話は時々聞こえてくるので、皆ぼんやり知ってたりすることかもしれない。そういうなんとなく知っている程度のことについて本を読んだりすることで知識の輪郭線がはっきりするのは楽しいことだ。楽しいことは良いことであるし、漁師とヤクザの関係が想像以上に根深く複雑に絡み合ったもの(ほぼ一体化してたりする)であることが分かるのは面白い。

それにしても、とかく、読んでいると高級海産物の名前が繰り返し出てくるものだから、犯罪のルポ本なのに読んでて食い物のことが頭に浮かんで仕方がない。そういえば最近鰻を食べていないな。家の近くの鰻屋は以前はそれほど客が入っていないように見えたが、最近は店舗の外に簡易椅子を並べているし、流行りはじめたのだろうか。追加で100円払うと只の吸い物が肝吸いにグレードアップするというのでいつもやっていたが、1000円払えば肝が10倍になるのだろうか、など考えてしまう。集中力が致命的に欠けているんです。

菊池成孔の著作からの引用もあった千葉県銚子市の話も良かった。菊池成孔はラジオで氏の実家が銚子で大衆割烹を営んでいたという話を度々していた。漁師(ヤクザ)の喧嘩のあと、床に落ちたまぶたの切れ端を拾ったとか、そんなバイオレンス味の強い話だったと。昨年末のラジオ最終回では本書についても少し触れていた。ラジオ、良い最終回だったよね。ほとんど感動的だった。

本書について知ったのはその菊池成孔のラジオの最終回で、そのあとTwitterでも一部で話題になっていることを知った。興味は持ちつつ、特に買って読むほどではないと思っていたところで折よく読む機会がやってきた。

偶然にしてはちょっと出来過ぎているんじゃないかと思いつつ、しかし、この本を読んだところで僕の蒙が啓かれたりするわけでもない。どちらかと言えばこのタイミングでこの本を持参したpetroさんが「持ってる」という話な気がするのだが 。

それでも、偶然の一致というものは大事にすべきであろう。