Cork

木灘日記

日記を書きます。

すっぽんの立ち位置

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このたびすっぽんというものを初めて食べる機会に与った。

店は野毛のなんとか言うところで、客席は全て座敷であり、店に入るとすぐ靴を脱ぐようになっている。座敷には4人席が4組と5人分くらいのカウンターが備えられていていずれも掘りごたつ。思ったよりは客が入るようになっていて、僕と同行者は4人席の方に案内された。

注文はコースを頼んだ。メニューを見ると小・中・大と分かれていて、今回頼んだは中コース。1頭料理と書かれているから、恐らく調理するすっぽんの大きさが違うのだろう。カウンターの方に目をやると、奥に水槽があって中にすっぽんたちが入れられている。一匹、ちょっと小ぶりかなというサイズのすっぽんが万歳するようにこちら側へ腹を見せながら水槽をよじ登ろうとしていた。

しばらくしてまずはすっぽんの血を日本酒で割ったものと、胆汁を日本酒で割ったものが出てきた。店主と思われる女性がそれぞれの効能を説明してくれる。

「すっぽんの血は滋養強壮、胆汁には消化促進の効果があります」

何故か水商売っぽいメイクと雰囲気の店主の説明に相槌を打ちながら、「胆汁って口に入れることがあるんだ」などと話す。ところで血液には滋養強壮効果があるという言説には特に何も思わないのだが、胆汁に消化促進の効果があると言われるとどうも疑わしい気持ちになってしまう。そのまんま過ぎるというか、確かに生物の体内で分泌される胆汁の機能としてはそうだが、別の生き物のそれを経口摂取して効果あんのか? という。

味については血はほとんど日本酒そのもの、胆汁はかなり苦くて同行者共々息を止めて一気に飲み干した。効果の疑わしい不味いものを敢えて口にするのは道楽だよなとエンタメを感じたりなどした。

コース料理の内容は血と胆汁の日本酒割り、肝と白子付きの刺身、唐揚げ、肝の串焼き、そしてすっぽん鍋というものだった。

どれも美味しく、すっぽんという生き物は捨てるところのほとんどない、どこを食っても美味い優秀な食材であるというのは本当だった。個人的にすっぽんに関して勘違いしていたところとして、僕はすっぽんの甲羅はすべてゼラチン質であり全体を食べられるものだと思っていたのだが、甲羅のベースは普通に硬く食えない部位であることを知った。

ただ、どこをどう食っても美味いすっぽんであるが、刺身やら唐揚げやら鰻のタレの味がする肝焼きやら種々の食い方において果たしてすっぽんがベストの食材である必要があるのか、と言われると別にそうでもないなという印象だった。

すっぽんという食い物についてざっくりとした僕の理解としては「鳥っぽさと魚っぽさを併せ持つ何か」というものだ。鳥と魚、それぞれの素材に応じた調理法を援用しても十分に美味いのがすっぽんであるが、たぶんそれぞれの良い素材を使った方が美味いだろうなと思ってしまったのだ。

よって僕のなかのすっぽんは高級且つ高水準の代替食材、というポジションに置かれることになった。

唯一、鍋だけはすっぽん独特と言うほかない味わいの出汁が出ていて、代表料理とされるだけあるなと思った。まあ、ただこれも数多ある鍋の出汁の種類の一つで突出したものだとは思えなかったのであるが。

どうも不満げな書きっぷりになってしまったが、実際すっぽんが優れた食材であることは疑いようがない。一匹丸ごとを使い、様々な部位を様々な調理方法を用いて食べるのはエンタメ的であるし、味も良い。腹もすっぽん初体験の好奇心も十分に満たされて良かった。

あとは途中、店内にがっしりした体格の男性とも女性ともつかない水商売風の格好をした人物が現れて厨房へまっしぐらに入っていった。この店の建物の2階にはフィリピン系のニューハーフバーが入っているらしく、どうやらオーナーが同じであるらしい。オーナーはやはり店主の女性であろうと入店から感じていた違和感の答え合わせができて、こちらも良かった。そんなとこ。


R.I.P

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