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木灘日記

日記を書きます。

サンティアゴ巡礼③

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日本を出て2日目。

前日は時間の都合上パリのバイヨンヌ駅付近に宿泊した。この日は巡礼のスタート地点の街であるS.Jへの移動が目標だった。

S.Jまでの移動はパリ・モンパルナス駅からTGV(フランスの高速鉄道)に乗って4時間ほどかかるバイヨンヌという街まで行き、そこからローカル線に乗り換えて更に1時間ちょっとかかる。

TGVの乗車券は日本で事前に購入しておらず、ホテルで前日に取った。なんかチケットを買おうと検索すると案内サイトみたいなところが幾つも出てくるのだが、それらでチケットを買うと手数料が取られるらしく、気合で夜中までかけて鉄道会社のHPから直接購入した。

乗り換えが上手く出来るのか、というかそもそも上手く電車に乗ることが出来るのかすら怪しかったため朝7:00頃のチケットを取るも、翌日目を覚ますと既に6:00を過ぎている。

バイヨンヌ駅は大きな駅で、この時点で僕はどこの入り口から入ればTGVの乗り場に行けるのかも分かっていなかったから、5:00くらいには起きて乗り場の確認などをするつもりでいたのだ。死ぬほど焦りながら荷物をまとめ直してホテルのカウンターに急いだ。

人一人が入るので精一杯の小さなカウンターには前日のチェックイン時にもいた眼鏡の女性が座っていた。カードキーを返しつつ、携帯でTGVの電子チケットを見せて駅にはどう向かえばいいのか必死に尋ねた。

受付の女性は僕の手から携帯を取るとチケットの内容を確認し、続いて地図アプリを見せるとTGVの乗り場に最も近い駅入り口までのルートを指で示してくれた。時間は既に6:30近くになっている。礼の言葉もそこそこにカウンターを離れようとする僕の顔があまりに不安そうな表情をしていたのか、「easy mission」と笑って言ってくれた。

僕は内心「笑いごとちゃうで」と思いながらホテルを飛び出してまだ薄暗い街中を急いだ。駅までは結局10分もかからずに到着した。電光掲示板と電子チケットを見比べながら乗り場を目指す。

電子チケットのQRコードを機械に通して改札を抜け、無事に乗車予定のTGVを発見した。しかし、目の前の車両が何号車なのかがいまいち分からない。近くの駅員の格好をした男性にチケットを見せて尋ねようとしたものの、「自分には分からない」と禄に相手をしてくれない。業務外のことは一切しないというグローバルな労働観をさっそく味わいつつ、何とか自分の座席を発見して席に着いた。

のだったが、いきなりトラブルに見舞われた。発射前の車両点検で何か不備が見つかったらしく、出発が遅れたのだ。しばらく席に座っていたのだが、何やら未知の言語(勿論フランス語だ)でアナウンスが流れると乗客たちが次々と下車をし始めた。何が起きたのか分からず呆然としていると、斜め前に座っていた男性がジェスチャーで下車を促してくれた。

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車両の点検が終わるまで待つ乗客たち。いつ終わるのか全く不明で、もし運行休止になったらどうしようか、払い戻しやチケットの再購入すらも覚束なさそうだから不安で仕方がなかった。

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そわそわしていると足元に犬が寄ってきた。これくらいの大型犬もリードに繋いだだけで普通に乗車できるらしい。

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その後、なんやかんや1時間近く待たされながらもTGVは走り、無事バイヨンヌへ到着。このあとS.Jへ移動するためのローカル鉄道はかなり時間が空いていたので駅を出て街を散策することにした。

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バイヨンヌ駅の外見。作りは立派に見えるが、駅前の空間が工事中でズタボロだった。バイヨンヌにはサント・マリーという大聖堂があるらしく、そこへ行ってみることにした。

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歩道の脇に唐突に現れる本格派メリーゴーランド。

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サント・マリー大聖堂。元々ロマネスク様式で作られていたものが罹災してゴシック様式で作り直されたらしい。

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というわけで初ヨーロッパ、初大聖堂、初ステンドグラスを味わったのだった。ステンドグラスはやっぱきらきらして綺麗でいいな。でも思ったとおり携帯のカメラでは全然上手く撮れないんだよな。デジカメも持っていったけど、道中は歩くのに必死でいちいちデジカメを取り出して撮影する気に殆どならないという罠があった。

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バイヨンヌからS.Jへのローカル鉄道にも無事乗車。異常に自然度の高い風景を観ながら電車は進む。途中、森の中を木々のあいだを分け入るように進むような場所もあったりしてなかなか面白かった。

S.Jに到着すると、同じ場所で電車を降りた人々は皆巡礼者で、こぞって同じ方向へ歩いていく。まずは巡礼事務所を尋ねるのだ。

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巡礼事務所では巡礼のスタートにあたって、最初の目的地であるロンセスバージェスへの道中に関する簡単なアドバイスや相談に乗ってくれたり、サンティアゴ・デ・コンポステーラまでの道中にある宿泊施設(アルベルゲ)の宿泊料や連絡先の書かれたリストが貰えたりする。

また、ここではクレデンシャルという巡礼を証明する手帳をもらうことも出来る。クレデンシャルはスタンプラリーの台紙のようなもので、途中で立ち寄った教会や宿泊施設、カフェやバルなどに置かれているスタンプを押していき、実際に各地を歩いたことの証明とするのである。

巡礼事務所で巡礼者の相手をするのはボランティアスタッフらしい。日本にも協会があって、そこの教会員がいることもあるという話を事前に見かけたように思うが、僕が行った際には日本語というマイナー言語が分かるスタッフはいなかった。

ちなみにアジア圏では日本人は比較的巡礼者がいる方(アジア圏トップは韓国)らしいが、全体で見ればごく少数で年間35万人くらいのうち1500人程度に過ぎない。

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S.Jから次の目的地であるロンセスバージェスまでの地図。2つのルートがあって、緑の線は比較的最近できた舗装路を多く通るルート。赤い線は通称「ナポレオンの道」と呼ばれる山道を多く行くルート。いずれもピレネー山脈を超えることになるのだが、どうせなら自然が多い方が楽しいだろうと浅はかな考えで僕は後者を行くことにした。

してしまったのだった。

その日はS.Jのアルベルゲに泊まり、翌朝早朝のスタートに備えることにした。ちなみに僕が泊まったS.Jのアルベルゲは巡礼事務所のスタッフに紹介されたうちの一軒だったが振り返るとめちゃくちゃ値段が高く質もイマイチであり、スタート地点という人口の多さにかまけて足元見てくるやんけ……という具合だった。

夕食は街中の小さなレストランに入った。そのレストランでは巡礼者向けのコース料理で、いわゆる「メヌー」と呼ばれるものが提供されていたのでそれにした。

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値段は確か12ユーロくらいでデザートまでついてきて味も量も十分だった。ちなみにスペイン(S.Jはまだフランスだけど)ではコースにドリンクも付いてくるんだけど、ワインを選ぶとボトル一本が出てきたりする。でもここはグラスワイン。あと基本的に料理にはバゲットがついてくるうえ、結構な割合で無限湧きする。

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寝床の風景。アルベルゲは基本的に2段ベッドを他人と共有する形になっている。ここは2段ベッドが2セットごとに区切られていて4人部屋のような形になっていた。また、老人の多いサンティアゴ巡礼の道において暗黙の了解として若者は二段ベッドの上にされる運命にあり、特に男はほぼ間違いなくノータイムで上を指定されるのである。