Cork

木灘日記

日記を書きます。

儚く美しい愛の道程 - 『ケムリクサ』

 

ケムリクサ 1巻[上巻] [Blu-ray]

ケムリクサ 1巻[上巻] [Blu-ray]

 
ケムリクサ 2巻[中巻] [Blu-ray]

ケムリクサ 2巻[中巻] [Blu-ray]

 
ケムリクサ 3巻[下巻] [Blu-ray]

ケムリクサ 3巻[下巻] [Blu-ray]

 

 
冬が終わり春が訪れ、アニメが終わる。季節の移り変わりに無為な時間の経過を感じてしまう僕にとって、アニメが終わるというのもまた辛い気持ちになるものだ。

己の人生の時間を別の主体によって区切られるのは居心地が悪い。間隔が安定していればいるほどに時間というものを意識してしまう。アニメは1話が1週間、1クールで大体3ヶ月。スマホゲーのイベントやガチャの開催期間は2週間とかそんなもんか。そうやって切り刻まれた時間を歪に積み重ねて、僕はいつか分からぬ死の瞬間に向かって進んでいくのだ。

とは言いつつも、僕はアニメに関してはあまり観る方ではない。1シーズンに1本~3本くらいか。今期は『どろろ』と『ケムリクサ』を観ていた。

んで昨日、『ケムリクサ』の最終話がamazonプライムに上がったので観た。良かった。以上。

……と言いたいところだし、実際に面白いものを観たときに的確にそれを言葉にするのが僕は得意ではないだが、ちょっとくらいは書き残しておくとしよう。

僕はたつき監督の作品に見られるSFっぽい要素だったり、荒廃した廃墟的なモチーフにはあまり興味がない方だし、あの気の抜けた感じの3Dに対しても「別に嫌いじゃないけど、好きという感情も湧いてこないな」という具合で熱心なファンとは到底言えないのだが、それでも11話のEDの入りについては白眉だなと思った。

作中の大きな謎に対する答えを示しつつ、そこからシームレスに印象的且つ示唆的なEDに繋いでいく手腕は偶然成立するものでは有りえず、たつき監督の脚本・演出能力の優秀さを証明して見せたんじゃないだろうか。

元々EDだけは特筆して気に入っていたので、11話は「曖昧な感情を抱きつつもここまで観続けてきて良かった」と素直に思えて良かった。

EDは背後で廃墟の塊みたいなものが回転している以外には、姉妹のシルエットが次々と葉になって散っていったり分裂したりする程度で動きの少ない映像なのだが、固定された画面の中で静かに回転する巨大な廃墟と、曲に合わせて次々と散っていくシルエットの組み合わせが妙な感動を齎すのである。

葉となって散るというのも良い。黒とグレーがほとんどを占めるEDの色彩において姉妹のシルエットだけは鮮やかなピンク色で表現されている。そして、姉妹が葉となって散るとき、その葉の色もピンク色のままなのであり、これがどうも花びらのように錯覚されるのだ。

人間が花びらになって消えていくというと、やはり坂口安吾桜の森の満開の下』が想起されるだろう。魔性の女に魅入られ多くの人を殺め続けた男が最後、満開の桜の森で花びらと化して消える。儚く美しい愛の末路。

奇しくも『ケムリクサ』も愛の物語である。しかし、『ケムリクサ』において姉妹が花びら(葉)になって散るのは末路ではなく、愛の道程においてだった。儚く美しく愛の道程。末路も同じように美しく、そして優しいものだった。

なんていうか、十分じゃないか?