Cork

木灘日記

日記を書きます。

羊羹の欺瞞

福井土産の羊羹をまりまりと食いながらパッケージを眺めていた。飲食物の材料とか内容量だとかが書かれている部分を読むのは結構楽しい。

羊羹はすべての素材に優先して砂糖の存在が一番に書かれている。聞くところによると、食品の材料欄はその製品全体に占める割合の多い構成物質から順に書かれるものであるという。やはり羊羹とは砂糖の塊なのだ。ぷるぷると黒光りする羊羹を眺めながら、まるで砂糖の煮凝りだな、などと思いながらパッケージに書かれた文字列を読んでいると、栄養素の表示がないことに気が付く。

カロリーだとかビタミンだとか、そういったものの表示がない。砂糖の塊だからカロリー以外は大したことはなかろうと思うが、表示が一切ないと気持ちが悪い。アルミっぽい包装紙、その上の個包装の包み、外箱、どこにも書かれていない。訝しんでいると、さらに不思議なことに気が付いた。

この羊羹は同僚が福井旅行の際に買ってきたものだ。個包装の包みにも福井県の何某という老舗和菓子店の名が書かれている。しかし、その表記は「販売者」という書き方になっているのである。

「製造」ではなく「販売」。あちこち見ても、どこで製造されたものなのかは書かれていない。

更に、「販売者」としてその福井の和菓子屋の名が記されている部分だが、これがシールになっているのだ。内容量や材料は個包装の包みに直接印字されているが、「販売者」の部分だけがシールで後付けされている。

どういうことなのか考えたが、これはつまり、この羊羹は福井県の何某という和菓子屋で作られたものではなく、他所から買っているのだと思われる。

欺瞞だ、と思った。いくらご当地グルメボルガライスなどという謎の料理を掲げてしまう名産に乏しい土地であるとしても、さすがに他所から買ってきたものにシールを貼って我が物顔で販売するのはちょっと厚顔無恥が過ぎるのではないかと思った。あくまで「販売」であり、「製造」とは言っていないから嘘ではない。そういう理屈は付くのだが、それが逆に姑息さを助長しているように感じられる。

様々なヒントから本来の製造元を割り出してみると、香川県の和菓子屋が販売する羊羹がまったく同じものだった。彫刻刀で彫られたような字体のデザインなどが完全に一致する。そしてその羊羹は、今度こそ製造元としてその香川の和菓子屋の名が冠されているようだった。

所詮羊羹など菓子の一つであるし、食べて美味ければどうだって良いと言えば良い。しかし、同僚はこれを福井県の老舗和菓子屋で土産物として購入したのだ。無辜の購入者を欺くとは不届きな、と謎の義憤めいた感情が湧いてくる。

しかしまあ、食っていると段々とどうでも良くなってきた。甘味とは偉大だな。それにしても、そもそも同僚はなぜ羊羹なんて買ってきたんだろうか。羊羹が好きなのか。僕は和菓子であればきんつばが好きです。そんなところ。